企業を経営するうえでは欠かせないIT業務ですが、「社内にITの知識やスキルをもった人材がいない」「IT業務にリソースを割かれて本業の遂行率が悪い」といった課題を抱える企業も少なくありません。その解決策として、外部の専門企業に業務委託する「ITアウトソーシング」が注目を集めています。
とはいえ現状をよく把握しないまま丸投げしてしまうと、かえって業務効率が悪くなったりトラブルを招いたりするリスクもあるため注意が必要です。
本記事では、IT業務のアウトソーシングに適する業務やメリット・デメリット、導入に至るまでのプロセスなどをわかりやすく紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
IT業務のアウトソーシングとは
ITアウトソーシングとは、企業のIT業務を専門企業に外注することを指し、「ITO(Information Technology Outsourcing)」と略されることもあります。
IT業務は対応内容が多岐にわたるため、専門的な知識のみならず、リソースがかかる分野です。
そのため、多くの企業ではコスト削減や業務効率化を目的に、専門企業に一部または
すべてのIT業務をアウトソーシングすることが一般的になってきています。
IT業務をアウトソーシングする意義や目的
IT業務をアウトソーシングする企業は増えていますが、具体的にどのような理由で活用しているのでしょうか。
ITアウトソーシングの意義や目的を紹介するので、自社に導入する理由として当てはまるものがあるか確認してみてください。
人員不足の解消
少子高齢化などの影響により、日本全体の労働力人口が減少しています。特に若年労働力はこの20年ほど減少し続けているため、ITを得意とする若者世代の人員の確保は非常に困難です。
社内の限られた人員をIT業務にまで割くと、企業の主軸となる業務に十分なリソースを注力できません。
恒常的な人員不足を解消するために、IT業務はアウトソーシングして、自社の人員にはコア業務に集中してもらいたいという経営者が増えています。
組織全体における生産性の向上
企業の強みとなる分野に社内の人員を集中させることで、効率的に組織全体の生産性を向上させることが可能です。
いままでほかの業務を兼ねて対応していた社員は、問い合わせやトラブルから解放され、コア業務に従事する時間を確保できます。
また、システム運用保守をアウトソーシングすると、サーバーやネットワークの不具合などにも早急に委託先が対応し復旧してくれるため、営業支援や勤怠管理などのITシステムを使用した業務が滞ることもありません。
コストの削減
IT業務をアウトソーシングすることにより、社内人材の採用や育成にかかる時間やコストをカットできます。
また、コストだけでなく、それまで自社のIT担当者が担っていた問い合わせやトラブルに対応する負担を軽減することが可能です。
IT人材の採用や育成に費やしていた時間やコストを、自社にとってより重要な業務に使えるようになります。
専門分野の知識や技術の補完
IT業務は対応範囲が広いうえに専門性が高く、ITを得意としない企業において十分な知識・レベルまで人材育成することは難しいです。
IT業務をアウトソーシングすることで、専門企業のスキルを使うことができるため、人材育成の必要がなくなります。自社の求めるスキルを持った即戦力を得ることができるのです。
IT業務の発展は早いため、知識をアップデートし続けるのは難しいでしょう。最新の専門分野の知識を持った人材を投入することで、技術不足で滞っていたシステムの運用も可能になります。
IT業務のアウトソーシングの形態
IT業務のアウトソーシングと一口に言っても、その形態はさまざまです。
ここでは、アウトソーシングの主な形態の種類について説明するので、自社の業務の外注に適した形態があるか確認してみてください。
フルアウトソーシング
「フルアウトソーシング」とは、一部の作業をアウトソーシングするのではなく、業務機能のほとんどをアウトソーシングする形態を指します。
求めるIT業務に関わるほぼすべての作業を丸ごと委託先に任せられるので、社内のリソースをより重要度の高い仕事に振り分けられることが大きなメリットです。
運用アウトソーシング
サーバーやOSなど、システムの運用を委託する形態を「運用アウトソーシング」と呼びます。
システム運用の担当者がいないことで、社内の誰も使用できないシステムがあったり、多忙でメンテナンスができずセキュリティが気になるシステムがあったりしませんか。
そのような場合に、システム運用のみをアウトソーシングすることで、システムの技術的な問題をなくすことができます。
ホスティング
「ホスティング」は、サーバーやストレージの準備と運用、保守、機能強化などを委託する形態です。
自社内にサーバーを設置してシステムを運用している場合、トラブルや不具合が発生すると、一時的にサーバーを停止する必要があるので、サービスが止まってしまうという問題が起こります。
そのようなリスクを減らし、安定したサービスを提供するため、外部のサーバーを借りる企業も少なくありません。
ハウジング
「ハウジング」とは、データセンターをもつ専門企業のスペースを間借りして、所有しているサーバーを運用する形態です。
先述のホスティングと似ていますが、ホスティングでは専門企業のサーバーを借り、ハウジングでは自社でサーバーを用意して、専門企業に預けるという違いがあります。
サーバーの所有権は自社にありますが、機器の保守やメンテナンス、トラブル対応は委託先に任せるケースが多いです。
ヘルプデスク
「ヘルプデスク」は、顧客からの電話やメールでの問い合わせに対して技術的なサポートを提供する形態を指し、コールセンター業務もヘルプデスクに含まれます。
問い合わせやトラブルの対応を外部の専門企業に委託することで、自社のリソースをコア業務に専念できるため、組織の生産性の向上が期待できるでしょう。
常駐サービス
デスクサイドサポートとも呼ばれる「常駐サービス」は、専門企業のスタッフが自社に常駐し、技術的なサポートを受ける形態です。
トラブルなどでサポートを必要とする際に、即座に対応してもらえます。また、トラブルが起きていないときでも、常にセキュリティの監視などを行ってくれるので、安定したシステム運用が可能です。
IT業務のアウトソーシング導入までのステップ
IT業務をアウトソーシングするためには、いくつかのステップを踏んで進める必要があります。
一般的な導入までのステップを説明するので、どのような流れでIT業務をアウトソーシングするのか確認していきましょう。
1. 現状課題と目的の明確化
ITアウトソーシングを導入する際は、まず現状を把握・分析して課題を洗い出し、アウトソーシングする目的を明確にすることが大切です。
「現状の自社のリソースで遂行できていない業務は何なのか」「コア業務の遂行を妨げる業務は何なのか」など、課題を洗い出します。
忘れてはいけないのが、アウトソーシング導入の目的です。「コア業務に注力することで売上を増やす」「内部の体制を整えるために一時的に専門企業の力を借りる」など、アウトソーシングを導入することにより、どのような結果を求めるのか明確にしましょう。
2. 要件定義
次のステップは、要件定義です。課題や目的が明確になったうえで、アウトソーシングに求める業務工程や人材、予算などのベースラインを決めていきます。
要件定義は、アウトソーシングを成功させる大きな要素です。途中で要件が変わることもありますが、明確にした課題や目的を意識して、最低限崩してはならない要件を決めておきましょう。
3. 導入計画
続いては、導入計画です。導入計画では、業務内容の優先度や重要性を精査し、具体的な運用フローを考えていきます。
トラブルを防ぐためにも、業務範囲や品質についてしっかりすり合わせておくことが大切です。
アウトソーシング先との連絡手段やコントロール方法、夜間や早朝などの対応についても細かく決めておきましょう。
この工程をうまく進めることで、実際に運用したときに業務の標準化や適切な人材配置・育成が可能になり、効率よく業務を遂行できるようになります。
4. テスト運用・導入
最後は、アウトソーシングのテスト運用・導入です。実際にテスト運用をしてみて問題点がないか確認しましょう。新たな業務フローで問題が発生する可能性が確認できれば、その都度記録し協議が必要です。
一定のレベルに達した段階で、委託先のみで運用を開始します。また、運用を開始したあとも、定期的な情報共有や改善点のチェックは必要です。常に委託先と連携を図り、新たに出てきたトラブルや課題を改善していきましょう。
アウトソーシングに適するIT業務の特徴
ここでは、アウトソーシングに適するIT業務の特徴を説明します。
自社の業務のなかにアウトソーシングに適した業務があるか、ぜひ確認してみてください。
繁閑の差が激しい
企業の業務量は、一年を通して一定ということはほとんどありません。繁忙期と閑散期がある場合が多く、業務量の差が激しい場合に、アウトソーシングは適しています。
人員が不足する繁忙期だけアウトソーシングするなど、必要なタイミングだけ人員を確保することが可能です。
余剰人員を抱える必要もないので、人件費の削減にもつながるでしょう。
ルーティン化されている
重要な判断や意思決定が必要なく、マニュアルに落とし込みやすい・作成しやすい業務は、アウトソーシングに向いています。
人が行う業務にミスはつきものですが、ルーティン化されている業務は、誰が行っても同じような結果が出せるため外注しやすいです。
また、IT業務を熟知した企業が手順書やマニュアルを作成して業務にあたるので、精度向上にも期待できるでしょう。
技術進歩が早い
IT技術の進歩は非常に早いです。そのスピードに対応して、新しい技術や業界の動向などを取得しなければ、企業の発展は望めません。
IT業務のなかでも特に技術進歩が速いWeb関連やSNSの分野では、社内で対応していくよりもアウトソーシングしたほうが効率的です。それらの分野を得意する専門企業に頼ることで、最新のスキルやノウハウでサービスを展開できるでしょう。
IT業務をアウトソーシングするメリット
ITアウトソーシングを利用することで、さまざまなメリットが得られます。
ここでは、IT業務をアウトソーシングすることで、どのようなメリットが生まれるのか説明するので、ぜひ参考にしてみてください。
業務効率化により生産性が向上する
自社でIT業務を行う場合、問い合わせやトラブル対応などに時間を割かれるため、コア業務に必要なリソースを使わなくてはなりません。
アウトソーシングすることで、これまでIT業務に従事していた社員が本来優先すべきコア業務に集中できるようになり、その結果企業全体の生産性向上が見込まれます。
特に、IT業務が不得意である企業の場合は、効果が如実に表れるでしょう。
社内リソースを有効活用できる
社内のリソースには限りがあり、企業の発展やイノベーションのためには社内リソースを有効活用しなければなりません。
アウトソーシングを利用することで、IT担当者の業務負担を減らし、企業にとってより重要なコア業務にリソースを投入することが可能です。
また、時期的な理由で業務量に差が生じても、そのタイミングだけ社内の人員を増減させることは困難ですが、アウトソーシングであれば業務量に合わせてリソース調整ができるので、必要な時期に人員を増やすこともできます。
コストを削減できる
IT化が進むなかで、企業におけるIT関連のコストは増加しているため、アウトソーシングにかかる費用を払っても、従来よりコストを削減できるかもしれません。
システムの運用や保守に必要な人員やサーバーなどのIT機器が必要なくなることで、人件費や固定費が抑えられます。
また、アウトソーシングする際には、業務と現状のコストを洗い出すため、無駄なコストを見つけることもできるでしょう。
(参考:日本における2023年のエンタプライズIT支出の成長率を4.7%と予測 | Gartner)
システムのガバナンスを強化できる
専門性の高い企業にアウトソーシングすることで、適切なシステム管理体制を構築でき、ガバナンスが強化されます。
ビジネスの成功にはシステムの利用が必要不可欠です。しかし、適切なシステム管理ができていないと、障害や情報漏洩などのリスクがつきまとってしまいます。
IT業務を丸ごと専門企業にアウトソーシングし、システム全体のガバナンスを強化することで、IT業務におけるさまざまなリスクを減らすことができるのです。
IT業務をアウトソーシングするデメリット
IT業務のアウトソーシングは、メリットがある一方で無視できないデメリットも存在します。
IT業務をアウトソーシングすることによって生じるデメリットを説明するので、確認していきましょう。
IT業務のノウハウが蓄積されない
アウトソーシングした業務は社内にノウハウが蓄積されず、社員の育成ができないというデメリットがあります。
アウトソーシングをした業務に自社の人員が関わることはないため、スキルが向上せず、自社でそのIT業務をすることは難しくなるでしょう。
アウトソーシングを活用しながら長期的にIT人材の育成も進めたいと考えている場合は、委託先と情報の共有ができるスキームが必要です。
かえってコストがかかる可能性がある
業務内容や費用対効果をしっかり把握しきれていないと、実際には必要ないサービスを導入してしまい、逆にアウトソーシング費用のほうが高くつく可能性があります。
きちんと業務内容を把握して、アウトソーシングを依頼する企業との打ち合わせを重ねましょう。
自社業務の一部を委託するため、費用対効果などを考慮し、しっかり選定することが大切です。
セキュリティ上の問題が危惧される
アウトソーシングするためには、企業内の機密情報を開示する必要があります。不正利用されたり、情報が漏洩したりする可能性もゼロではありません。
そのようなリスクを可能な限り減らすために、「どのように情報は管理されるのか」「実際の現場のセキュリティは万全であるか」などを確認して依頼しましょう。
逆に生産性が低下する可能性がある
アウトソーシング先の業務レベルによっては、運用上の問題解決やトラブル対応に時間をとられてしまい、逆に生産性が低下する可能性があります。
コストだけを重視してしまうと、目的とかけ離れた結果につながりやすいので、アウトソーシング先の業務の質も確認しましょう。いままでの実績や打ち合わせ、自社の調査をもって判断することが大切です。
IT業務をアウトソーシングするときの注意点
IT業務のアウトソーシングを成功へ導くためには、いくつか注意すべきポイントがあります。
ここでは、3つの注意点を説明するので、以下の点を意識してアウトソーシングしてみてください。
見積もりだけで選定しない
アウトソーシング先を比較する際に、どうしてもコストに目がいきがちです。しかし、費用を抑えたいからといって見積もりの安さで選ぶと、機能面やクオリティが想定していたレベルに達さず、思うような効果が得られない場合もあります。
委託先の選定には、コストだけでなくあらゆる観点から判断することが重要です。委託先候補の対応業務、専門分野、実績、セキュリティも合わせて確認しましょう。
責任範囲を明確にしておく
IT業務のアウトソーシングでは、SLA(Service Level Agreement)という取り決めを両者の間で交わすことが一般的です。
SLAでは、サービス内容の定義・範囲・達成目標などが文書にまとめられており、通常トラブル時の責任範囲や対応が記載されます。
アウトソーシングを依頼する際は、委託先としっかりすり合わせて責任範囲を明確にし、両者間の認識の齟齬をなくしておきましょう。
将来的な内製化に備える
一度アウトソーシングした業務を、再び内製化することは容易ではありません。
手順書やマニュアルの共有、引継ぎなどは委託先企業にとってメリットがないので、断られる場合が多いです。
もし将来的に内製化したい場合は、契約時に「手順書やマニュアルの所有権は自社にあるのか」「内製化を検討する際には引継ぎなどに協力してもらえるのか」など取り決めをしておきましょう。
専門性の高いIT業務はアウトソーシング
自社にスキルのあるIT担当者がいない状況で、専門性の高いIT業務を継続するのは、難しいです。また、新たに人員を採用して育成するのも時間を要します。
アウトソーシングでは、専門企業のスキルを使うことができ、スタッフの研修や育成も委託先で行ってくれるため、大幅な業務効率化が期待できるでしょう。
専門性の高いIT業務はアウトソーシングして、コア業務に注力できる環境づくりを目指してください。
IT業務の悩みは「クラウドSE」で解決
ITが関わる業務は幅広く、そのすべての業務環境を自社で整えるのは大変です。IT業務を行うことで、通常業務に支障が生じては元も子もありません。
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